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民話

1.金時伝説

金時伝説

昔むかし、平安時代も終わりに近い頃のはなしじゃった。

金時山のふもとに金太郎という力の強い子どもが姥(うば)の手で育てられておった。 ところがある日、山で遊んでいた金太郎は元気が余って転んだ拍子に、木の枯れ枝で目を刺し、失明しそうになってしもうたのじゃ。

さあ、えらいことになったと心配して、姥は箱根権現にすがって助けをこうた。すると「山向こうに眼病に効く温泉がある。その湯で目を洗ってみよ」とありがたいお告げがあった。 早速行ってみると、岩の割れ目から温泉が流れ出ていて、その湯で金太郎の目を洗うと、たちまち治ってしもうたそうな。その湯が今の姥子の湯じゃ。 目の治った金太郎はますます元気に、怪力をふるってクマを相手に相撲を取ったり、体の数倍もある大岩をけったりして遊んでいたぞな。

そこへ奥州で国司の任を終え、都へ帰る源頼光という偉い人が通りかかった。かねてから都にあこがれていた金太郎は、その前にとび出して「家来にしてほしい」と頼んだのじゃ。

「では、僕の侍と力比べをしてみよ」源頼光は金太郎にそう言って、家来を相手に相撲を取らせた。金太郎はたちまち一人を投げ飛ばし、二人がかりでかかってきた侍を負かせてしもうた。

こうして源頼光の家来になって京へのぼった金太郎は、後に坂田公時(さかたのきんとき)と名を改め、「源頼光四天王の一人」として大江山の鬼退治で怪力をふるうなど、立派な働きをしたということじゃ。

金時神社奥の院には、金太郎が姥と住んだ「宿(やどろぎ)石」や、足でけって遊ん「蹴落とし石」がいまでも残っておる。

2.乙女峠の孝女伝説

昔むかし、仙石原のあるところに、「とめ」という十七になる娘が住んでおった。
父親が重い病にかかって、なかなかよくならなかったので、とうとう娘の「とめ」は峠をこえて、御殿場側の地蔵堂に願かけに行く決心をしたのじゃ。

そんなこととはつゆ知らぬ村の人々は、毎晩のように家をぬけ出す娘を見て、「ああ、男ができたのじゃ」「父親の病気をよいことにして男に会いに行くとは何という親不孝な女子じゃ」、かげでそういって怒っておった。 誰かがそっと父親に告げ口をした者があったとみえて、雪の振るある冬の晩、「とめ」が家を出ていったあとを見はからい、父親は病をおして後をつけに出た。

このころはもう父親の病もかなりよくなっておったのじゃ。 雪の上についた「とめ」の足跡は村とは反対に峠へと続いとる。 「はてな。こんなほうに男なんぞがおるのかいな」どこへ行くのだろうといぶかって、足跡を追っていくうちに峠を越え、いつの間にか地蔵堂についてしまった。堂守にたずねると、「娘さんならもう帰った。父親の病気を治すためというて、雨の夜も風の夜も休まず通いつめてな。ちょうど今夜が満願なのだよ。よい娘さんを持ってあなたは幸せ者じゃ」と言う。

父親はあわてて「とめ」の姿を追った。やがて曲がりくねった坂のところに来ると、「とめ」が行き倒れていた。「とめよお、とめよお、息を吹き返しておくれ」父親は「とめ」を疑ったことを泣いてわびたが、「とめ」はついに息を吹き返さなかったのじゃ。

それ以来、村の人たちも反省して「とめ」の孝心をたたえ、その峠を乙女峠と呼ぶようになったのだと。

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